菅義偉内閣総理大臣の会見-首相官邸より(全文)
令和3年1月4日午前11時3分
例年であれば、五穀豊穣と人々の幸せを祈る伊勢神宮へ参拝した後に年頭の記者会見を行っておりましたが、今年は現在の新型コロナウイルスの状況を踏まえ、参拝をしかるべき時期まで延期し、ここ官邸において会見を行うことになりました。
新型コロナウイルスについては、引き続き1日の感染者数が3000人を超え、重症者数も高い水準で推移をしており、非常に厳しい状況だと認識をしております。まずは、年末年始も最前線で戦っておられる医療・介護をはじめとする関係の方々、そして外出や帰省を控えて頂いている国民の皆様に、心から感謝を申し上げる次第であります。
政府としては、こうした厳しい状況を踏まえ、改めて新型コロナウイルス対策の強化を図っていきたい。このように思います。まずは感染対策、さらに水際対策、医療体制、ワクチンの早期接種。この4点で強力な対策を講じることにいたしました。
第一に「感染対策」です。12月の人出は、多くの場所で検証しましたが、特に東京と近県の繁華街で夜の人出は、あまり減っておりませんでした。昨年以来、対策に取り組む中で判明したことは、“経路不明の感染原因の多くは、飲食によるもの”と専門家が指摘をしております。従って、飲食でのリスクを抑えることが重要です。そのため、夜の会合を控え、飲食店の時間短縮にご協力いただく事がもっとも有効ということであります。一都三県(東京、埼玉、千葉、神奈川)について、改めて先般、時間短縮の20時までの前倒しを要請いたしました。
そして国として、緊急事態宣言の検討に入ります。飲食の感染リスクの軽減を実効的なものにするために、内容を早急に詰めます。さらに、給付金と罰則をセットにして、より実効的な対策を取るために、特措法を通常国会に提出いたします。
第二に「水際対策」です。年末にコロナウイルスの変異種が帰国者から見つかり、外国人の新規入国を原則として拒否することにし、入国規制を強化いたします。また、いわゆるビジネストラックについても、相手国の国内で変異種が発見をされた際には、即時停止することといたします。
第三に「医療体制」です。特に、東京をはじめとするいくつかの都市でひっ迫する状況が続いております。各地域において、新型コロナウイルスを受け入れる病院、病床の数を増やしていただく必要があります。国として、看護師などのスタッフの確保、財政支援を徹底して行うとともに、各自治体と一体となって病床確保を進めて参ります。必要ならば、自衛隊の医療チームの投入も躊躇いたしません。医療崩壊を絶対に防ぎ、必要な方に必要な医療を提供いたします。
第四に「ワクチン」です。感染対策の決め手となるワクチンについては、当初、2月中に製薬会社の治験データがまとまるということでしたが、日本政府から米国本社に対して強く要請し、今月中にまとまる予定であります。その上で安全性・有効性の審査を進めて承認されたワクチンを、出来る限り2月下旬までには接種開始できるように、政府一体となって準備を進めております。まずは、医療従事者、高齢者、高齢者施設の従業員の皆さんから順次開始をしたいと思います。私も率先してワクチンを接種いたします。
それまでの間、国・自治体、そして国民の皆様が感染拡大を減少に転じさせるために、同じ方向に向かって行動することが大事です。これから新年会のシーズンを迎えます。引き続き、不要不急の外出などは控えて頂きたいと思います。
従来のウイルスも、変異種も対策は同じです。マスク、手洗い、3密の回避をぜひお願いをいたします。今こそ国民の皆様と共に、この危機を乗り越えていきたいと思います。ぜひとも皆様方のご協力をよろしくお願い申し上げます。
まずは、新型コロナウイルスの感染を収束させ、その上で新たな時代において我が国経済が再び成長し、世界をリードしていくことができるように、就任以来100日余り、これまでの発想に捉われない改革を続けて参りました。“出来るものから実現し、国民の皆様に成果をお届けする”。私は令和3年、そんな年にしたいと思います。
携帯電話料金については、大手が相次いで、現在の半分程度となる大容量プランを実現すると発表し、本格的な競争に向けて大きな節目を迎えました。
また、地方の活性化については、1兆5千億円の交付金を用意し、地域社会の立て直しを進めていただきたいと思います。また5年間で15兆円規模の国土強靭化にも取り組んでいきます。農産物の輸出については、新たな野心的な計画の下で、米や牛肉などの専門的重点品目の産地をしっかり支援していきます。
さらに次の時代の成長の原動力となるのが「デジタル」と「グリーン」です。今年の9月にはデジタル庁をスタートさせ、いよいよ改革を本格化させます。有能なデジタル人材が国や地方の現場で、また民間でも活躍し、同時にすべての国民の方々が恩恵を実感することが出来るデジタル社会を目指して参ります。
また2050年、カーボンニュートラル(脱炭素社会)を目指して、年末に取りまとめましたグリーン成長戦略をさらに具体化し、出来るものから実行に移していきます。2兆円の基金、税制を活用して、再生可能エネルギーの鍵となる蓄電池を筆頭に、大規模の設備投資や研究開発投資を実現します。このような成長志向型の政策をこれからも展開していきます。
長年にわたり最大の課題とされる少子化問題についても大きく歩みを進め、これからの世代が希望を持てる年にしたいと思います。不妊治療の保険適用を来年4月から開始します。現行の助成制度も所得制限を撤廃して、2回目以降の助成額を倍にしたうえで、予算成立後、1月1日にさかのぼって適用をいたします。さらに今後4年間かけて14万人分の保育の受け皿を整備し、待機児童の最終的な解決を図ります。
加えて40年ぶりの大改革として、長年の課題でありました「35人学級」。本年から実現し、生徒一人ひとりに行き届いた教育を進めて参ります。このような少子化対策、若者のみなさんのための対策をこれからも続けていきたいと思っています。
コロナが世界の対立を乱し、修復の兆しが未だ見えない中だからこそ、私は多国間主義を重視し、ポストコロナ (コロナ禍の「ポストコロナ」な状態とは、今の生活環境にあるような「三密を避ける」「手洗いの奨励」「マスクの着用」といったガイドライン的な対応の中の生活を強いられる状態ではなく。人それぞれ自身が「人と人」「人と空間」「人と働き方」といった様々な場面を「新型コロナウイルス」と共に自然と認識しながら暮らす環境下の事を指すようです) の秩序づくりにリーダーシップを発揮していきたいと思います。その上で最も重要なパートナーが米国です。バイデン次期大統領が就任された後、出来る限り早くお会いして、日米同盟の絆をより強固なものにしたいと思います。そして最も重要な拉致問題や国際社会が直面する課題の解決に緊密に協力していく関係を築き上げていきたい、このように思います。
この日米同盟を基軸にしながら豪州、インド、欧州、ASEAN(東アジア諸国連合)など、様々な国や地域と連携を深め、自由で開かれたインド太平洋の実現の実現に取り組みます。また同時に、中国、ロシア、近隣諸国との安定的な関係を築いていきたいと思います。
当面は、新型コロナウイルスの克服に全力を尽くします。一日も早くこれまでの日常を取り戻し、皆さんに安心と希望をお届けしたいと思います。
夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会にしたいと思います。感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けするこの大会を実現すると決意のもと、準備を進めて参ります。
今年は改革の芽を大きく育て国民の皆様にその果実を実感していただきたいと思ってます。そして、のちに令和3年を振り返った時、その年が「新たな成長に向かう転機となった変革の年であった」、こう言われる年にしたいと思います。
そうした思いで、国民のために働く内閣として、今年も全力で取り組んで参ります。私からは以上です。
【質疑応答】
(内閣広報官)
それでは、これから皆様から御質問を頂きます。
指名を受けられました方は、私から指名させていただきますので、近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、所属とお名前を明らかにしていただいた上で質問をお願いいたします。質問が終わりましたら、マスクを着用の上、自席までお戻りください。なお、自席からの追加質問はお控えいただきたいと存じます。
最初は、慣例に従いまして、幹事社2社から1問ずつ質問を頂きます。
それでは、幹事社の方、どうぞ。
テレ東の篠原さん、お願いします。
(記者)
幹事社質問をさせていただきます。緊急事態宣言について、一都三県について発令を検討されるというお話がございました。週内にも発令されるという報道が相次いでおりますが、具体的なスケジュール感について教えて頂ければと思います。また、発令する場合は一定期間周知期間は設けるお考えはお持ちでしょうか。また、昨年末での会見では、緊急事態宣言には慎重な姿勢を表明されていましたが、ここに来て一転して発令の検討に至った、9その一番のポイントというのは、どういったところでしょうか。また、「GoTo トラベル」が11日に全国停止の期限を迎えます。今回の緊急事態宣言の対象になるであろう一都三県を除いて解除を行うのか、それとも引き続き全国の一斉停止を続けるのか、現状のお考えをお聞かせいただければと思います。
(菅総理)
まず、冒頭のあいさつの中で申し上げました通り、国として緊急事態宣言の検討に入りたいと思います。特に飲食の感染リスク、この軽減を実行的なものにするために内容を詰めていきたい。このように思います。この考え方でありますけれども、北海道、大阪など、時間短縮を行った県は結果が出ています。東京といわゆる首都三県においては、三が日も感染者数は減少せずに、極めて高い水準であります。一都三県で全国の半分という結果がここに出ております。こうした状況を深刻にとらえて、より強いメッセージが必要である。このように考えました。
そして、こうした考え方の基に、政府として諮問委員会にかけさせていただいて、そこで考え方を伺うわけであります。ですから、具体的にいつということよりも、まずは飲食の軽減リスクを軽減する実効的なものにする。そのことを詰めて、その中で表明したいと思っています。それと緊急事態宣言となれば、いわゆる「GoTo トラベル」これについての再開は、なかなか難しいのではないかと考えています。今申し上げた通り、緊急事態宣言になれば、そこは難しいという事であります。
(内閣広報官)
すみません。追加質問はお控えください。
それでは、幹事社の方、もう一社どうぞ。時事の大塚さん、お願いします。
(記者)
幹事社時事通信の大塚です。
今後の政治日程についてお伺いします。通常国会が今月召集されます。どのような成果を目指すのか。また、その成果を踏まえ、9月に任期を迎える自民党総裁への御自身の再選、10月に任期を迎える衆議院の解散への対応、それぞれについてお考えをお聞かせください。
(菅総理)
まずは、国会においては補正予算と来年度予算の早期成立を図りたいと思います。そして、コロナの特措法改正議論を急ぎ、早期に法案を提出します。さらに、デジタル庁の設置や35人学級のための法案などがあります。また、行政手続のはんこの廃止のための法案、こうした多くの法案を提出し、そういう中で国会にしっかり説明していきたいと思っています。
総裁選、衆議院解散でありますけれども、当面は新型コロナウイルスの感染対策、これを最優先して取り組んでいきたいと思います。そして、日本の経済全体を見渡しながら、再生に向けても、これは取り組む必要があると思っています。
こうしたことに全力で取り組んでいく中で、いずれにしろ秋までのどこかでは衆議院選挙を行わなければならないわけであります。もう任期も決まっていますから。そうした時間の制約も前提にしながら、そこはよくよく考えた上で判断したいと思います。まだ総裁選挙は先の話だと思っています。まずは目の前のこうした課題に一つ一つしっかり取り組んでいくことが大事だと、このように思います。
(内閣広報官)
それでは、幹事社以外の皆様から御質問を頂きます。
質問を希望される方は挙手してください。私が指名いたしますので、所属とお名前を明らかにした上で質問をお願いします。質問が終わりましたら、マスクを着用の上、自席までお戻りいただきたいと思います。なるべく多くの方に御質問いただけるよう、質問はお一人1問としていただくようお願いします。
それでは、挙手をお願いします。では、読売の黒見さん。
(記者)
総理、読売新聞の黒見です。
緊急事態宣言についてお伺いいたします。総理は、かねて緊急事態宣言については、経済への打撃が大きいということで慎重な立場でいらっしゃったと思うのですけれども、今回検討するに当たっては、その経済への打撃を和らげるための対策としては、どういったものを考えていらっしゃるでしょうか。
(菅総理)
まず、この1年間、コロナ対策、コロナ問題に対応してくる中で学んできたことが、ここは明快になっているのです。専門家の委員の方も言っていますけれども、やはり例えば東京ですけれども、6割この発生源を特定できない方々がおります。その中で大部分は飲食に関係することだろう、専門委員の方はこう言っております。そうした中で、飲食の感染リスクの軽減、ここをやはり実効的にするために、ここは早急に検討したいというのが今の考え方です。
そして、このことについて北海道、大阪など、これは時間短縮、こうしたことを行った県では効果が出て、陽性者が下降してきております。ただ、東京とその近県3県が感染者が減少せずに高い水準になっているということもこれは事実であります。こうしたことをやはり深刻に考えて、より強いメッセージ、ここが必要だというふうに思いました。
そうしたことを考える中で、まずは最優先として行うべきというのは、そうしたリスクの発生源がかなり多いと言われる飲食、そうしたことを中心にしっかり対応すべきかなと思っています。
(内閣広報官)
それでは、次の御質問を受けたいと思います。
では、フリーランスの江川さん。
(記者)
フリーランスの江川紹子と申します。よろしくお願いします。
質問の前に今のちょっと確認なのですけれども、つまり、飲食に集中するということは、前回、昨年4月の緊急事態宣言のように、教育、文化、スポーツ、いろいろな経済活動全てを止めてしまったような緊急事態宣言とは違うものをイメージされている、ということでいいのかという確認を1つしたいと思います。
その上で質問ですが、外交関係になるのですけれども、中国の問題です。リンゴ日報の創業者の方がまた勾留されたり、あるいは、周庭さんが重大犯罪を収容する刑務所に移送されたというような報道がありました。天安門事件のときの日本政府の融和的な方針が明らかになって、議論も招いているところであります。菅首相は、この一連の問題についてどのように考えるのか、お聞かせください。
(菅総理)
まず、全体としてのこの緊急事態宣言ですけれども、この約1年の中で学んできた、どこが問題かということ、これはかなり明確になっていますので、そうしたことを踏まえて、諮問委員会の先生方に諮った上で決定をさせていただきたいと、このようになります。そういう考え方からすれば、やはり限定的に行うことが効果的。限定的に、集中的に行うことが効果的だというふうに思っています。
(記者)
限定的、集中的と。
(菅総理)
はい。
中国問題については、これは多くの日本国民が同じ思いだと思っています。民主国家であってほしい。そうしたことについて、日本政府としても折あるところに、そこはしっかり発信していきたいと、このように思っています。
(内閣広報官)
それでは、次の御質問に行きたいと思います。質問のある方、いかがでしょうか。
では、産経の杉本さん。
(記者)
産経新聞の杉本と申します。よろしくお願いします。
政府はこれまで、緊急事態宣言に至らないように感染をコントロールする、といった努力を続けてきたと思います。しかしながら、緊急事態宣言をしなければならないという今の状況に至った原因について、総理はどのようにお考えになっていらっしゃいますでしょうか。
例えば、先ほどから言及がありましたけれども、政府は東京都に20時までの飲食店の営業時間短縮を求めていましたけれども、東京都等は応じておりませんでした。仮にこういった政府の要請に東京都等が応じていた場合、緊急事態宣言、今のような状態を回避することができたというふうに総理はお考えでしょうか。よろしくお願いします。
(菅総理)
まず、東京都とその近県で12月の人出があまり減らなかったということです。また、三が日も感染者数は減少しないで、極めて高い水準になっている。こうした状況を深刻に捉えて、より強いメッセージを発出することが必要だと判断いたしました。
感染状況全体として先ほど申し上げましたけれども、全国でこの2週間、1都3県だけで約半分になっています。こうした状況を見て、政府として、4人の知事の要望も判断の一つの要素でありますけれども、全体として見れば、やはり首都圏だけが抜きん出て感染者が多くなってきている。ここについて危惧する中で行っていきたい。それで判断をしたということであります。仮定のことについては、ウイルスのことについて断定することは控えさせていただきたいと思います。
(内閣広報官)
それでは、あと1、2問で終わらせていただきたいと思いますが、それではフリーランスの大川さん。質問は簡潔にお願いいたします。
(記者)
明けましておめでとうございます。フリーランスの大川豊でございます。よろしくお願いします。
私は知的障害、発達障害の精神疾患を持った方の現場に行っております。今回また緊急事態宣言になると、強度行動障害という暴れてしまうお子様とか方々の、例えば軽症者のホテル、病院での入院というのがかなり厳しい状況でございまして、医療従事者にも負担をかけるために、病院から出されるという現実がございます。
施設の方では、そういった医療従事者の方に負担をかけないためにゾーニング(空間をテーマや用途に分けて考えること)などの努力を行っておりますが、この前、厚生省との勉強会で、クラスターが起きて初めてDMAT(災害派遣医療チーム)が行くという現状でございます。日頃から医療・福祉の連携で、医療関係者が福祉施設に来てゾーニングをする、感染防止指導をする。各自治体によって全部対応がばらばらです。例えば奈良県は20人受け入れますが、他の都道府県から移動して受け入れるということが大変厳しいというのがあります。ですので、国としての行動指針がすごく大切な状況です。菅総理の考えをお聞かせください。
(菅総理)
私自身も横浜市会議員時代、手をつなぐ育成会という会の会長を務めたことがありまして、現状については、詳細についてよく理解していると、このように思っています。
今、お話を頂きました、それぞれの場所によって対応も違うわけでありますから、そうしたことは国としてもしっかりと指導して、そうした障害者の方が安心できる、そうしたことを支援していきたい、このように思います。
(内閣広報官)
それでは、大変申し訳ございません。次の日程がございますので、これで会見を終了させていただきます。
大変申し訳ありません。質問を希望して挙手されている方、各1問をメールなどでお送りください。後ほど総理からのお答えを書面で返させていただきます。御理解いただきますようにお願いをいたします。
以上をもちまして、本日の総理記者会見を結ばせていただきます。
皆様の御協力に感謝を申し上げます。ありがとうございました。
令和3年1月4日菅内閣総理大臣記者会見終了後の書面による質問と回答
(質問)
今月22日に発効する核兵器禁止条約について伺います。政府はこれまで、核保有国の米国との同盟関係に基づく「核の傘」を前提とした我が国の安全保障体制を踏まえ、核兵器禁止条約への署名・批准をしない立場を取っています。同条約の発効について、改めて菅総理の御所感をお聞かせください。12月にもオーストリアで第1回締約国会議が開かれる予定です。連立与党の公明党は山口那津男代表自ら、自民党でも一部議員から、日本政府のオブザーバー参加を求める声が挙がっています。政府は従来から参加に対して慎重な姿勢を示しています。発効後に何らかの参加への検討を行う予定があるのかどうか、また、こういった与党からの声について今月開会する通常国会で、どのように対応していく予定なのか教えてください。【中国新聞】
(回答)
我が国は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向けた国際社会の取組をリードする使命を有しており、核兵器禁止条約が目指す核廃絶というゴールは、共有しています。
一方で、核兵器のない世界を実現するためには、核兵器国を巻き込んで核軍縮を進めていくことが不可欠ですが、現状では、同条約は米国を含む核兵器国の支持が得られていません。さらに、多くの非核兵器国からも支持を得られていません。
我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、抑止力の維持・強化を含めて、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、地道に、現実的に、核軍縮を前進させる道筋を追求していくことが適切であると考えています。
こうした我が国の立場に照らし、同条約に署名する考えはなく、また、御指摘の会議へのオブザーバー参加については、慎重に見極める必要があると考えています。その上で、我が国としては、引き続き、立場の異なる国々の橋渡しに努め、核軍縮の進展に向けた国際的な議論に積極的に貢献していく考えです。
こうした政府の考え方について、国会においても、丁寧に説明していく考えです。
(質問)
政府はこの間、「緊急事態宣言を出さないために」とコロナ対策を呼び掛けてきました。結果的に感染拡大が止まらず、宣言検討に至った政府のコロナ対策の自己評価をお聞かせください。感染状況によっては、宣言地域を首都圏以外にも拡大するのでしょうか。コロナについて様々なことが分かってきており、若者の人の流れが減らないなど前回発令時よりメッセージが届きにくくなるとの懸念がある。リーダーとしていかにして国民にメッセージを届けるお考えか。【北海道新聞】
(回答)
感染拡大が続いている背景には、専門家によれば、気温の低下の影響に加え、直近の感染拡大については、飲食をする場面が主な感染拡大の要因とされていると承知しております。
こうした中、これまでも全国各地で飲食店の営業時間短縮を進めてきており、北海道、大阪など営業時間短縮をしっかり行った地域ではその効果が出ているものと承知しております。
他方、東京とその近県では、この3が日も感染者数は減少せずに、極めて高い水準となっており、こうした状況を深刻に捉えて、より強いメッセージが必要だと判断し、今般、緊急事態宣言の検討に入ることとしたものです。
緊急事態宣言の対象地域については、ここ2週間は1都3県で全国の感染者数の半分を占め、明らかに感染拡大の中心となっていることを踏まえ、これらの地域を対象とすることが念頭にありますが、具体的には感染状況を見て早急に検討してまいります。
この感染拡大を減少に転じさせるためには、国、自治体、そして国民の皆様が同じ方向に向かって行動することが何より大切です。このため、国民の皆様には、引き続き、様々な場を活用して、政府として、施策の考え方を丁寧に説明しながら、進めていきたいと考えております。
(質問)
総理にお聞きします。全国的にPCR検査の一日の能力は11万件ですが、実施件数は1日当たり最大でその能力の半分強です。にもかかわらず、症状があってもPCR検査を受けることができない事例が多数あります。日本でのPCR検査体制は不十分だと言わざるを得ません。例えば、検査を増やすために、外国と同じように薬局などで検査することが可能ではないでしょうか。政府は検査を制限していますか。【西村カリン氏(Radio France)】
(回答)
検査の必要がある人が、迅速かつスムーズに検査を受けられるようにすることが重要であると考えております。
御指摘のような症状がある場合については、抗原検査キットによる検査が可能であり、これまでも、季節性インフルエンザの流行に備え、1日平均20万件程度、シーズンを通じて約2,000万件程度の需要にも対応できる検査能力を確保するとともに、都道府県において、全国約2.8万か所の診療・検査医療機関を指定するなど、発熱等の症状のある方が確実に検査を受けることができる体制の整備を進めてきております。
併せて、医師が必要と判断した検査がきちんと行われるよう、全額国の負担で検査機器の整備等を行っております。
今後とも、検査の必要性を踏まえて、検査体制の拡充を図ってまいります。
(質問)
昨年12月27日、羽田雄一郎参議院議員が急逝されました。羽田議員は同月24日深夜に発熱などの症状を訴え、25日、26日は自宅待機。27日に新型コロナウイルスのPCR検査をクリニックで受ける前に容態が急変して亡くなられました。羽田議員に限らず、亡くなった後にPCR検査で陽性が判明する事例は少なからず発生しています。政府はこうした不幸なケースから何を学び、どのような対策を講じるお考えでしょうか。【畠山理仁氏(フリーランス)】
(回答)
亡くなられた羽田議員の御冥福をお祈り申し上げます。
御指摘の羽田議員に関する経過の詳細については承知しておりませんが、検査が必要な方がより迅速かつスムーズに検査を受けられるようにすることが重要であると考えております。
このため、これまでも、季節性インフルエンザの流行に備え、1日平均20万件程度、シーズンを通じて約2,000万件程度の需要にも対応できる検査能力を確保するとともに、PCR検査についても全額国の負担により機器の整備を図るなど、その体制整備を進めてきております。
今後とも、検査の必要性を踏まえて、検査体制の拡充を図ってまいります。
(質問)
政府のメッセージの実効性についてお伺いします。政府は総理を先頭に、会見やぶら下がり取材などで、不要不急の外出自粛を呼び掛けましたが、昨年4月の緊急事態宣言時のような劇的な人流減少は首都圏を中心に見られていません。総理も先ほどの会見で「東京都と近県で12月の人出があまり減らなかった」ことを新規感染者数が高いレベルで推移している背景に挙げました。このように、政府の要請がなかなか届きにくい現状をどう考え、こうした状態を踏まえて今後、どうやって国民に行動変容を促しますか。また、新たに首都圏への週内発出検討を表明された緊急事態宣言は、強制力が限定的な現行の特措法に基づく発出になりますが、こうした国民の「自粛疲れ」や、メッセージがなかなか届きにくい現状がある中、どうやって実効性を持たせますか。【西日本新聞】
(回答)
正に東京とその近県で、この3が日も感染者数は減少せずに、極めて高い水準となっており、こうした状況を深刻に捉えて、より強いメッセージが必要だと判断し、今般、緊急事態宣言の検討に入ることとしたものです。
また、昨年以来、対策に取り組む中で判明したこととして、経路不明の感染の原因の多くは飲食が原因であると専門家が指摘しています。このため、現下の感染拡大を抑えるためには、飲食での感染リスクの軽減を図る対策が重要であり、これを実効的なものとする観点から、緊急事態宣言の内容を早急に検討いたします。
併せて、特措法については、給付金と罰則をセットで、より実効的な措置が採られるように、その改正法案を次期通常国会に提出いたします。
(質問)
緊急事態宣言を発出する場合の狙いについてお伺いします。現時点では特措法に罰則はなく、宣言が発令されても要請・指示を守らない事業者名への強い対応は「公表」にとどまるわけですが、実効性はどの程度上がると考えていますか。【朝日新聞】
(回答)
東京とその近県で、この3が日も感染者数は減少せずに、極めて高い水準となっており、こうした状況を深刻に捉えて、より強いメッセージが必要だと判断し、今般、緊急事態宣言の検討に入ることとしたものです。
また、昨年以来、対策に取り組む中で判明したこととして、経路不明の感染の原因の多くは飲食が原因であると専門家が指摘しています。このため、現下の感染拡大を抑えるためには、飲食での感染リスクの軽減を図る対策が重要であり、これを実効的なものとする観点から、緊急事態宣言の内容を早急に検討いたします。
併せて、特措法については、給付金と罰則をセットで、より実効的な措置が採られるように、その改正法案を次期通常国会に提出いたします。
(質問)
菅義偉首相は昨年12月25日の記者会見で、「桜を見る会」前日の夕食会を巡る安倍晋三前首相の国会質疑について「中身を見ていない。これから精査したい」と述べられました。その後、精査はされましたでしょうか。改めて、安倍前首相は説明責任を果たされたとお考えかを含め、御認識をお聞きします。【共同通信】
(回答)
安倍前総理は、できる限りの説明をされたと思いますが、説明が十分であったかどうかは国民の皆様が判断されることであり、私が申し上げるべきものではないと思います。
いずれにせよ、国会等における安倍前総理の説明が事実と異なっていたことが明らかになったことは、重く受け止めています。
各国で確認が相次いでいる変異した新型コロナウイルスについて、免疫学を研究する専門家がANNの取材に応じ、「感染力が強ければ、数に比例して重症者や死者もさらに増える」と警告しました。
「絶対的な感染者が増えてしまうと(ウイルスの)重症化する率が変わらないんだとしたら、重症者・死亡者の絶対数がずっと増えてしまうんですね。」
免疫学を専門とする小野 昌弘教授は、変異したウイルスについて、
「感染力が強く、これまでと同じ制限では感染者は増え続ける。」「より強い制限が必要」との認識を示しました。
小池氏に「いいようにやられ」宣言へ 首相、後手の末に
河合達郎 月舘彩子、松浦祐子、辻外記子
2021年1月5日 5時00分
年頭の記者会見で発言する菅義偉首相
2021年1月4日午前11時1分、首相官邸、恵原弘太郎撮影
菅義偉首相が、これまでの慎重姿勢から一転して新型コロナウイルス対応で緊急事態宣言の検討に入った。ただ、4都県の知事から要請を受ける形での検討表明は、「後手」に回った印象も否めない。専門家からは、宣言の実効性に懐疑的な見方も出ている。
「飲食の感染リスクの軽減を実効的なものにするため、内容を早急に詰める」。首相は4日の年頭会見で、緊急事態宣言を再発出する狙いをそう説明した。専門家が「飲食の場」での感染リスクが高いと指摘していることを踏まえ、営業時間の短縮要請に実効性を持たせて新型コロナウイルスを抑え込みたい考えだ。
昨年9月の首相就任以来、首相は緊急事態宣言には一貫して消極的だった。「消費者心理を一番冷え込ませる」(官邸幹部)として、経済活動への悪影響を懸念したためだ。12月25日の記者会見では、宣言がなくても国民の行動変容は「可能だと思っている」と断言。同28日から観光支援策「Go To トラベル」の全国一斉停止に踏み切り、多くの人が休暇を取る年末年始で感染収束を図る考えだった。
だが、思惑は外れた。東京都では同31日に1300人超の感染を記録。1月2日には東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県の知事から宣言発出の要請を受け、首相は周囲に「知事の要請は重い。迷っている」と漏らした。翌3日夕、首相公邸で加藤勝信官房長官らと1時間超にわたり対応を協議した場で、自ら「やらないといけないんじゃないか」と切り出し、宣言発出の方向性を固めたという。
今回の方針転換には、政権のコロナ対応への批判がこれ以上高まるのは避けたいとの思惑も透ける。
菅首相、「手遅れ感が満載」の緊急事態再宣言
解散時期は「秋のどこかで」発言ににじむ迷走
泉 宏: 政治ジャーナリスト 2021/01/06 5:50
1月4日の年頭記者会見で質問を聞く菅義偉首相(写真:時事)
菅義偉首相が4日の年頭会見で、緊急事態宣言を再発令する方針を打ち出した。東京や神奈川など、首都圏を中心とした感染急拡大に歯止めをかけるのが目的だが、与党内からも「遅すぎた」との批判が噴出し、「手遅れ感満載」(自民若手)の方針転換となった。
しかも会見の中で、今年の政局の最大の焦点となる衆院解散のタイミングについて、菅首相は「秋のどこかで」と発言し、会見後に官邸報道室を通じて「秋までのどこかに」だったと慌てて訂正する騒ぎもあった。
首相官邸の仕事始めの混乱ぶりは、「錯乱状態のトップリーダー」(自民長老)を国民に印象付ける結果ともなった。
にじむ都知事への不満と不信
菅首相は、4日午前11時から首相官邸で年頭会見を行い、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言について、東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県を対象とした再発令を「検討する」と明言した。政府は諮問委員会や国会報告を経て7日中に正式決定、8日午前零時から実施する方針だ。
宣言の実施期間は2月第1週までの約1カ月間とする方向で、今回は飲食店への営業時間短縮などに対策を集中させる方針だ。小中高校の一斉休校は要請せず、宣言期間中の大学入学共通テストも感染対策を徹底することを前提に予定通り実施する。
菅首相は専門家らの分析を踏まえ、「飲食でのリスクを抑えることが重要だ」として、感染拡大が続く4都県で集中的に対策を取り、感染防止の実効性を高めたい考えを示した。
ただ、元日以降も緊急事態再宣言に慎重な姿勢を続けてきた菅首相の「朝令暮改」(立憲民主党幹部)のような方針転換には、「飲食店の時短営業を徹底できない東京都知事への不満と不信が原因」(政府筋)との思いがにじむ。
3日午後の協議で方針転換
そもそも、東京の新規感染者数は2020年の大晦日に一気に1300人超へ急増した。しかし、この時点でも菅首相らの間に緊急事態宣言を検討する空気は薄かった。
しかし、正月休みで検査数が減った元日以降も、首都圏の感染者数は高止まりが続き、2日に小池百合子都知事らがコロナ担当の西村康稔経済再生相に宣言発出を求めて直談判した時点で状況が一変した。
危機感を強めた菅首相が、3日午後に西村氏や加藤勝信官房長官、田村憲久厚労相らと鳩首協議した席で、「(宣言を)やらないといけないな」と漏らし、方針転換が決まったとされる。
意地の張り合いが事態を悪化させた
これについて、首相周辺は「菅首相が小池都知事に『まずは時短要請を』と頼んだが動いてくれなかった」と小池氏への恨み節を口にしたが、与党内では、「これまでも繰り返されてきた菅、小池両氏の意地の張り合いが事態を悪化させた」(公明党幹部)との見方が広がる。
突然の方針転換で混乱する政府担当者を横目に、小池氏をリーダーとする首都圏の4知事は4日夜、飲食店に対する8日から31日までの午後8時閉店要請を政府に先行する形で緊急事態行動として決めた。同時に、4都県の住民に対して同時期の午後8時以降の不要不急の外出自粛要請も打ち出した。
菅首相の会見を受けて調整に着手した政府が、当初見込んでいた9日午前零時からの宣言発令を1日前倒しせざるをえなかったのも、小池氏らの行動が原因だ。菅、小池両氏は2020年7月のGoToトラベル開始時から「いがみ合い」(政府筋)を続けてきた。今回も「本来、最も連携が必要な首相と都知事の対立が迷走の原因」とされることが、国民の不信や不安を増幅させた。
年頭会見とその後の菅首相の言動にもブレや迷走が目立った。その象徴が衆院解散をめぐる菅首相の言い間違いだ。
菅首相は年頭会見で衆院解散の時期を問われると、「当面は新型コロナウイルスの感染対策を最優先に取り組んでいきたい」としたうえで、「秋のどこかで衆院選を行わなければならない」と発言した。
衆院議員の任期満了は10月21日で、年明け以降それまでの間は「いつでも衆院解散は可能」(自民選対)なはずだ。にもかかわらず、解散権を持つ菅首相が「秋のどこかで」と発言すれば、解散時期は東京五輪・パラリンピック閉幕後の9月初旬以降に限定されることになる。
発言訂正の文書配布で騒ぎが拡大
この発言に記者団は首を傾げ、政界にざわめきが広がった。しかも、会見後に官邸報道室が「『秋のどこかで』を『秋までのどこかで』に訂正させていただきます」とのペーパーを報道各社に配ったことで騒ぎは拡大した。
当の菅首相は4日夜に出演した民放番組で「『秋までのどこかで』と私、発言したと思っているんですけれども」と自ら言い間違いだったと釈明してみせた。
ただ、首相の伝家の宝刀の解散に絡む発言については、「歴代首相の誰もが全神経を集中させてきた。言い間違いなどありえない」(首相経験者)との声も多い。このため政界では「思わず本音を漏らしてしまい、慌てて言い間違いとごまかした」との見方も広がる。
野党は首相発言に集中砲火
この民放番組で菅首相は、「解散については、時期は決まっていますから」とも語ったが、この発言も「解散」ではなく、「衆院議員の任期満了」の間違いなのは明らかだ。さらに、新型コロナ対応の特措法改正に触れた中でも、「今回、特措法も緊急事態宣言も、悩み悩んだ中で、特に緊急事態宣言というのは発出させていただいた」と、検討中のはずの緊急事態宣言発出を過去形で語るというミスもあった。
番組内で菅首相は、緊急事態宣言について「悩みに悩んだ」と2020年末のGoTo全国一斉停止と同じセリフを口にした。これに対し立憲民主党の小沢一郎氏が自らのツイッターに「最悪の後手後手」と投稿し、蓮舫同党代表代行がすかさず「見事な後手」と書き込むなど、野党側は菅首相の一連の言動に集中砲火を浴びせた。
菅首相はこれまでの会見などで、「こして(こうして)」「そして(そうして)」など意味が取りにくい言い回しを多用してきた。与党内からも「語彙の少なさが表現力不足につながっている」との指摘も多く、野党側は「頭脳が混乱している証拠」(共産党)と酷評する。
2020年4~5月の緊急事態宣言は当初、首都圏の4都県と大阪、兵庫、福岡の7都府県が対象だったが、その後全国に広がり、すべて解除されたのは約1カ月半後の5月25日だった。しかも、当時は宣言発出時に「感染はすでにピークを過ぎていた」(感染症専門家)が、今回は「宣言後も感染拡大が続く可能性が大きい」(同)とされ、「1カ月での宣言解除は困難」(同)との見方が多い。
ワクチンの早期接種開始に期待
仕事始めの4日からは検査数が急増し、その結果が反映される6日以降の感染者数は、「東京は1500人、全国で5000人の大台を突破する」(同)事態も想定されている。
そうした状況下で菅首相が「最後の頼り」(側近)にしているのが、国内でのワクチン早期接種開始だ。年頭会見で菅首相はワクチン接種について、「2月下旬までには接種開始できるように、政府一体となって準備を進めている」とこの時ばかりは胸を張り、「私も率先して接種する」と記者団を見回した。
感染高止まりなら政権危機も
ただ、ワクチン接種開始には安全性の確認が大前提で、欧米では「南アフリカの変異種には効果がない」との研究結果も出始めている。しかも、先行して接種を始めたアメリカでも、接種の拡大は「当初の目論見よりはるかに遅れている」(ワクチン専門家)のが実態だ。
菅首相の思惑通り早期の接種開始にこぎつけ、それに合わせて感染者数が急減すれば、「東京五輪開催への道もひらけ、支持率回復も可能」(自民執行部)ではある。しかし、接種開始が遅れて感染者数が高止まりし、緊急事態宣言の解除が3月までずれ込めば、「支持率が20%台に落ち込んで、政権危機が深刻化する」(閣僚経験者)のは避けられない。
渦中の菅首相は5日早朝に官邸敷地内を散歩するなど、淡々と日課をこなし、同日の自民党役員会で、首都4都県を対象とする緊急事態宣言の発令を7日に決定する方針を表明した。
その表情は「もはや運を天に任せる心境」(周辺)ともみえるが、SNS上では「#菅辞めろ」などの批判がトレンド上位に並んでいる。「意志あれば道あり」という座右の銘の通り、菅首相に「迫りくる日本の危機を回避する宰相としての膂力(りょりょく)があるかどうか」(自民長老)。それが菅政権の命運を左右しそうだ。
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「緊急事態宣言」再発出が効果的でない根本原因
欧米の法制度にあって日本にはないもの
田上 喜一: 弁護士、弁護士ドットコム取締役 2021/01/06 9:00
1月4日の記者会見で、緊急事態宣言の検討に入ったことを明らかにした菅義偉首相(写真:ロイター)
新型コロナウイルスの感染拡大で、1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)を対象とした緊急事態宣言の再発出が検討されている。だが「人々の行動を制限するという点では、緊急事態宣言を出すことの実質的な意味は乏しい」と言うのが、安全保障法制や国際法に詳しい田上嘉一弁護士だ。また田上氏は新著『国民を守れない日本の法律』において、緊急事態法制の問題点も指摘する。いったいどこに問題があり、どのように整備するべきなのか、解説してもらった。
緊急事態宣言に外出を禁止する強制力はない
2021年に入っても新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。第3波の勢いが日増しに加速している。12月31日には、過去最多となる東京で1337人、全国では4519人の感染者が確認されている。
重症者数も増加の一途をたどっており、病床などの医療体制の逼迫が懸念されている状況だ。菅義偉首相は1月4日、1都3県を対象とした緊急事態宣言発出の検討に入った旨を明らかにした。
しかし日本の法制度上、感染症拡大防止を理由として海外のようなロックダウン(都市封鎖)を行うことができないことは、昨年3月の記事(日本のロックダウンが腰抜けになりかねない訳))で指摘したとおりだ。
緊急事態宣言を定めているのは、新型インフルエンザ対策特措法だが、この緊急事態宣言の効果は、人々に外出禁止などを命じるような強制力のあるものではなく、あくまで外出自粛の要請にとどまる。
この法律は、医療体制の確保や交通などのインフラの確保を主眼に置いている。そのため、人々の行動を制限するという点では、緊急事態宣言を出すことの実質的な意味は乏しく、あくまで国民の間に危機感を醸成するという点に意味があるにすぎない。
問題は半年亥蔵前から指摘されていた
こうした問題点については、半年以上前から指摘されていたことであり、本格的に感染が拡大した場合に備えて法の不備を整えるべきであるという点も議論に上がっていた。にもかかわらず、感染がいったん小康状態に入ったこともあり、議論は棚上げとなったままとなっていた。
ここへきて菅首相が罰則なども視野に入れた法改正について言及したが、本来であればもっと早くに着手すべきであったことは間違いない。感染が急速に拡大していることを受けて、今さらながらあわてて、緊急事態宣言発出についての議論を再開しだしたのは、状況を楽観視したために後手に回っているとのそしりを免れないだろう。
日本の安全を脅かす危機は新型コロナウイルスだけではない。地震や津波、豪雨といったような自然災害もあれば、北朝鮮のミサイルによる脅威、尖閣諸島などへの海洋進出を推し進める中国による脅威もある。
こうした事態に際して、必要となるのが緊急事態法制である。緊急事態は突然発生するものであり、事前に法制度を準備しておかなければならない。日本が法治国家である以上、法律の根拠なく国家権力を発動することは許されないのである。
一般的な「緊急事態」が統括的に規定されていない
ところが日本の法制度には、一般的な「緊急事態」を統括的に規定する法律がない。戦争や国際テロなどの有事には事態対処法、地震や豪雨などの自然災害に対しては災害対策基本法、そして新型コロナウイルスのような感染症には感染症法や新型インフルエンザ対策特別措置法といったように、別個の事態に対してそれぞれの法律が定められている。
そして、その多くが特別措置法(特措法)で構成されていることも特徴としてあげられる。原発事故であっても、イラク戦争への対応であっても、新型インフルエンザであっても、どれも特措法で対応しているのだ。
これに対して、欧米では緊急事態というものを統合的に捉えている。例えばアメリカの「1988年スタフォード法」(災害救助・緊急支援法)では、緊急事態を次のように定義している。
「緊急事態」とは、生命、財産、公衆衛生、そして公衆の安全の保護、または大災害の脅威を減少または回避するための州や地方政府の努力や能力を、連邦政府が支援する必要があると大統領が判断した状況または事態をいう。
1988年スタフォード法は、自然災害だけでなくテロなどの「すべての危機について連邦政府のサポートを必要とするもの」を「緊急事態」としている。同法に基づいて設立されている連邦緊急事態管理庁(FEMA)も、あらゆる緊急事態に対処する「オールハザード・アプローチ」という体制をとっている。
フランスやドイツでもまとめて整理
フランスやドイツの憲法をみても、戦争や紛争のような防衛事態、テロや内乱といった治安事態、地震、台風、感染症のような災害事態をまとめて緊急事態として整理している。
法律とは本来、不特定多数の人や事象に適用されるという意味において、一般性と抽象性を有する必要がある。特定の人や事象を対象にした法律は認められない。
しかし、実際には高度に複雑化した現代社会において、一般的・抽象的な法律だけでは社会の要請に十分に応えることができず、ある程度個別的・具体的な法律をつくることで対応することが必要となる場合がある。こうした場合に制定されるのが、特措法だ。
日本には緊急事態に対応する基本法がない
日本の法制度の問題は、特措法があることではなく、特措法ばかりで、緊急事態対処や感染症対策などについての基本法がないことだ。これは、つねに事案が発生するたびに、対症療法的に法律を制定してその場をしのいできたことの証左である。
例えば、1999年の茨城県東海村臨界事故のあとに原子力災害対策特措法が成立。そして2001年のアフガン戦争をきっかけとしてテロ対策特措法が、2003年のイラク戦争をうけてイラク復興特措法が成立している。
この方法は、特定の事案に即した法律を柔軟に作ることができるという面もあるが、中長期的に見ると、それぞれが別個に存在することで全体像の把握が難しい複雑な法体系となってしまう。
実際、新型コロナウイルスの感染が拡大していた今年3月に、感染症法や検疫法、新型インフルエンザ特措法といった法律を適用することができるのかという議論となり、結果的には法改正をしたうえで、緊急事態宣言を行うこととなった。
この点についてはさまざまな角度からの議論があるが、各法律がそれぞれを相互参照している関係にあり、ツギハギのパッチワークのようになっていてかなりわかりにくく、法律としても抜け落ちている部分があったことは確かである。
特措法は新しい事態に適用できない
また特措法は、あくまで特定の個別具体的な事態に対応する法律であるため、新しい別の事態が発生しても適用することができず、また別の特措法を作る必要が生じることになる。中には、ある時期がきたら失効する時限立法もあるのだから、なおのことである。
日本を取り巻く安全保障環境の変化や、気候変動とともに激甚化する災害を考えれば、危機が起きてから泥縄式に個別具体的な特措法を作るだけでは間に合わない。可能な限りの事態想定を行い、理性的かつ合理的に議論したうえで、あらゆる危機に対応した基本法を作る必要がある。
そのためには、あらゆる緊急事態を統合した「緊急事態対処基本法」を制定し、この基本法と個別具体的なそれぞれの事態に対応した法律とが連関して作動するよう作り込むことが必要であろう。
災害、防衛、治安に分けて基本法を制定する手段も
一足飛びにすべての緊急事態を統合した基本法の整備を行うことが難しいのであれば、緊急事態を、地震や台風などの「災害緊急事態」、戦争や紛争といった「防衛緊急事態」、テロや内乱のような「治安緊急事態」と分けたうえで、それぞれの基本法を制定することから始めるべきである。
このうち自然災害については災害対策基本法があるからひとまず置いておくとしても、新型コロナウイルスのように我々の生活を一変させてしまうほどの脅威である感染症に対しては、われわれがいかなる理念に基づいて対策を講じるかについての基本理念を示す必要がある。
そのため、感染症法、検疫法、新型インフルエンザ特措法といった法律を統合した「感染症対策基本法」を制定することが必要である。
それでは、なぜ日本においてこれらの緊急事態対処の基本法を定めることができないのだろうか。後編(1月7日公開予定)では、その根源である憲法まで深掘りして考えてみたい。
感染4914人、過去最多を更新 首都圏で全体の半数超
2021年1月5日22時34分
電子顕微鏡で見た新型コロナウイルス |
新型コロナウイルスの国内の感染者は5日、午後9時現在で新たに4914人が確認され、昨年12月31日の4520人を上回り過去最多を更新した。死者も過去最多の76人(これまでの最多は同年12月25日の64人)。4日時点の重症者は771人で、前日より40人増えてこれまでで最多になった。
5日の新たな感染者を都道府県別にみると、最多は東京都の1278人で、次いで神奈川県の622人。埼玉(369人)、千葉(261人)両県と合わせて全体の半数を超えた。この3県に加え、栃木、長野、岐阜、三重、和歌山、長崎、宮崎各県の計10県が過去最多を更新した。首都圏を中心に感染拡大に歯止めがかからない状況が続いている。
東京都の感染者が1千人を超えたのは、最多の1337人が確認された昨年12月31日以来。「人工呼吸器か体外式膜型人工肺(ECMO)を使用」とする都基準の重症者数は前日より3人増えて111人で、過去最多となった。
関西広域連合は5日、政府が緊急事態宣言の発出で調整中の東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県との往来自粛を各府県民に呼びかける行動宣言をまとめた。